旅の醍醐味は、見知らぬ土地で、新たな人々と出会い、その地方の言葉の響きに耳を傾けること。
ロシアの旅で、初めての町に到着し、宿で荷を解いたら、まず初めにお勧めしたいのは、その街の地下鉄に乗ることです。
さあ、駅へ行ってみましょう!
そして、窓口でカードかジェトン(切符となるコイン)を買ってみましょう。
改札口を通ったら、その街の人々の暮らしと出会う時間の始まりです!
ドキドキワクワクしながら、長いエスカレーターを下ります。

地元の人々と一緒にホームに立ってみましょう。
新聞を読んでいるおじさん、仕事で忙しそうな女性、子供連れのおばあさん、学生たち、恋人たち。
そのうち、トンネルの暗闇の奥から、ゴーッという音とともに、まぶしい光が近づいてきます。
僕は地下鉄が大好きなので、どんな車両がトンネルから姿を現すか、とても楽しみです。
轟音をたてて、電車がホームに入ってきました!
あっ、凄い!この町では、今もハリネズミちゃんが走ってるんだ!
ハリネズミちゃん、というのは、地下鉄車両Еж型のことです。ソ連時代の1970年代に製造が開始され、形式は別でも外観が同じものを含めると、おそらく旧ソ連はもちろん、ワルシャワ、ブダペスト、プラハなど、東ヨーロッパ各都市の地下鉄で、最も標準的だったモデルです。
Ежは、ロシア語でЁж(ヨーシュ)と読むことが出来ます。偶然にも、ヨーシュは、ロシア語でハリネズミのことを意味します。
そのため、地下鉄職員の人たちは、このタイプの車両のことを、愛情をこめて「Ёжик(ヨージク)=ハリネズミちゃん」と呼ぶのだそうです。

確かに、丸っこくて、くすんだ色合いで、車両の側面に通っている折り目が、なんだかチクチクしていそうなところなど、小さくて可愛いハリネズミに似ていますね。
ハリネズミちゃんの体の中には、天井に黄色い白熱球が並んでおり、電車が駅に到着する直前には、集電レールの継ぎ目のせいなのか、一瞬パチッと電灯が消えます。
まるで、本当に生きているハリネズミみたいです。
残念ながら、当初の姿のままのハリネズミちゃんは、旧式化してしまい、モスクワの地下鉄ではほとんど見ることがなくなりました。でも、ほかのロシア・旧ソ連・東ヨーロッパの町では、外観や内装を現代風に変えつつも、昔のハリネズミちゃんのデザインを受け継いだ様々な車両が、大勢の様々な人々を乗せて、今も走り続けています。
そんなわけで、ロシアの町で、地下鉄に乗ったら、ハリネズミちゃんやその仲間たちを、ぜひ探してみてください。