© Государственный заповедник «Шульган-Таш»

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≪バシキール・ウラル≫は、ウラル山脈南部の西側にあり、バシコルトスタン共和国の山岳林地帯境界線に位置しています。
約450平方キロの面積があり、シュルガン=タシュ自然保護区とアルティン・ソロク昆虫自然保護区の一部より構成されています。

≪バシキール・ウラル≫の魅力は大きく分けて次の3点となります。
・最も価値のある文化的・考古学的史跡と居住民の文化的伝統の保護
・自然地理学に於ける地球の地形変動プロセスの反映
・希少で絶滅の危機に瀕する動植物といった生物多様性の保護の重要性や意義

こうした価値から、2012年1月30日に文化・自然の複合遺産として世界遺産暫定リストに登録されました。

 

人類の関わり

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シュルガン=タシュ自然保護区にある有名なカポヴァ洞窟は、南ウラルに於ける最も大きな洞窟のひとつ。
1959年に発見された、前期旧石器時代の150以上の洞窟壁画があり、中央・東ヨーロッパに於いて最も規模が大きい古代の壁画群です。

世界的にも重要なこれらの壁画には、マンモスや馬、サイ、雄牛、抽象的な人物像が赤黄色土を使って描かれていて、放射化学による調査では、少なくとも1万3000~4000年前に描かれたものと判明しています。
この様に古い洞窟壁画が他に観られるのは、フランスとスペインだけとなり、ピレネー山脈より4000km離れたこの地で旧石器時代の芸術が発見されたのは、南西ヨーロッパに次いでウラル地方に旧石器文化の中心があったことを示しています。

 

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繊細に彩色されたマンモス、サイ、雄牛、人や異なる象徴図柄は表現能力の高さを表わしています。
特に馬はとても鮮やかに描かれており、馬への崇拝をも感じさせます。
また、こうした壁画が描かれた時代を考慮すると、芸術的な表現能力や技術レベルが非常に高く、人類の精神文化を表わした傑作といえるでしょう。
黄色土を用いた洞窟壁画の伝統は、南ウラルにおいて8~9000年続きました。

 

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さらに、描かれた図柄を考慮すると、古代旧石器人にとってカポヴァ洞窟は神聖な場所だったと考えられます。
洞窟内の壁画が描かれた空間は、神聖な場所の一部として、明らかに何かしらの機能を担っていたと見られています。

巡礼や様々な儀式、神聖な岩割り、黄色土を用いた壁画が意味するカポヴァ洞窟崇拝は、前期旧石器時代の初め以降ウラル地方に広がった洞窟崇拝伝統の良い例となっています。
この時代の儀式的な岩割りの伝統は、近隣の洞窟や、南ウラルの他の洞窟聖地に於いても証明されています。
カポヴァ洞窟が数千年に渡って聖地として存続したことは、考古学的検証やバシキール民俗研究の結果によって確認されています。
最近の民俗研究によると、地元のバシキールの人々は洞窟を今もなお崇拝していることが伺え、彼らの文化的伝統が特有であることの証明となっています。

石器時代より現代にまで伝わる洞窟崇拝は、南ウラルに於ける様々な叙事詩(ウラル・バトゥール、アクブザット、カラ・ユルガなど)を反映しています。
アルティン・ソロク保護区にも、バシキールの叙事詩にはっきりと歌われている歴史的・民族的な価値を有する場所が存在し、独自の文化を体現しています。
こうした神話の叙事詩では、カポヴァ洞窟や近隣のシュルガン湖は、別世界や水中世界への入口として描かれています。

近年の調査で、カポヴァ洞窟の土壌から旧石器人の住居跡が見つかっています。
住居跡には焚火や炭の痕跡があり、さらに結晶質石灰岩(大理石)や緑褐色碧玉から作られた道具、動物の骨やマンモスの牙から作成されたペンダントなど193点に上る出土品がありました。
なかでも緑蛇紋岩の装飾品はとても珍しいもので、さらには粘土製ランプの破片も発掘されました。
旧石器時代の土壌から土器の類が見つかるのはめったに無いことです。

 

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域内では、古来からの伝統的な採集法がかろうじて保たれています。
ブルジャン蜂と呼ばれるハチの群れを、森の木々に人工的に設置した木のうろの様な巣箱に集める、という採密方法は養蜂の原型ともいえるものです。
こうしたやり方は、現代のバシコルトスタンに於いて約1500年前から行われてきました。
ブルジャン蜂から採れるバシキールハチミツは、味や栄養成分の観点から、世界でも一番良いものとして知られています。
現在このハチの保護が行われており、バシキールの人々の独特な古代技術を保護することで、人と自然の上手な相互作用が保たれている顕著なモデルとなることでしょう。

 

地理

広大で多様な景観を有する≪バシキール・ウラル≫では、カルスト地形や、ベラヤ川、ヌグシュ川の岸より連なる褶曲構造(地層が曲がりくねるように変形する現象のこと)を有する崖などを見かけます。
高さ100mに及ぶ切り立った崖も珍しくありません。

地質上の構造から、この地域はプレドゥラルスキー海淵とウラル造山運動で隆起した地方の一部とされます。
プレドゥラルスキー海淵は、オルドビス紀(4億8830万年前~4億4370万年前)より石炭紀(3億5920万年前~2億9900万年前)へと続く一連の岩棚の沈殿物で占められています。
ウラル山脈は、地球に現存する最古の山脈のひとつで、古期造山帯(3億年前~2億5000万年前)に起きたウラル造山運動によって形成されました。

 

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世界規模で探求された石炭形成の歴史を通じて起こった画期的な出来事は、この地に顕著に見られるバシキーリアンの導入でした。
バシキーリアンは地質時代名の一つで、3億2320万年前~3億1520万年前にあたる、石炭紀ペンシルベニア亜紀を三分割した前期のことです。
この名称の導入は1934年、ロシア人地質学者・古生物学者であったソフィア・セミハトヴァによって成されました。
この地が地球の歴史を語る上で、地質学的・地形学的な価値を有する事が分かります。

 

動植物

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≪バシキール・ウラル≫の東側は、2つの温帯広葉混交樹林(東ヨーロッパ樹林・ステップ地帯と西シベリア広葉混合樹林)の出会う場所にあり、全体の約90%が広葉樹や針葉樹によって覆われています。
多様な地形やヨーロッパとシベリアの動植物相が集約されたことで、この地は極めて高い生物多様性を有しました。

地域には、南ウラル全体の約60%に上る895種の維管束植物が生息しています。
56種はバシコルトスタン共和国のレッドブックに、11種はロシア連邦のレッドブックに登録されています。

動物では2000以上の種が発見されました。
84種はバシコルトスタン共和国のレッドブック、40種がロシア連邦のレッドブック、さらに177種がヨーロッパのレッドブックに記載されています。

特に生存が危惧されている種

・アルメニアマルハナバチ    ・アポロウスバシロチョウ    ・淡水カジカ
・カワマス           ・カワヒメマス         ・ナベコウ
・イヌワシ           ・カタシロワシ         ・カラフトワシ
・オジロワシ          ・シロハヤブサ         ・ミサゴ
・ハヤブサ など

 

観光とアクセス

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シュルガン=タシュ自然保護区には博物館があり、自然保護区について学べます。
また、3時間程度のハイキングコースや地層を見学するボートツアーに参加することもできます。
カポヴァ洞窟は壁画保護の為、一部研究者を除いて一般公開されていませんが、レプリカの見学ができるようになっています。
フランスのラスコー洞窟やスペインのアルタミラ洞窟と同じ形態が取られていますね。

 

シュルガン=タシュ自然保護区までは、バシコルトスタン共和国の首都ウファより車で約5時間。
ウファまでは、モスクワよりアエロフロート・ロシア航空やS7航空のフライトがあります。所要約2時間10分。

人類史と地球史の出会うこの場所は、交通の便だけを考えると不便なところでしょう。
ですが、その不便を上回るだけの価値があることはお分かりいただけたかと思います。
ぜひとも一度足を運んでみてください。
ロシアだけに留まらない、この世界の新しい一面をきっと知ることができるでしょう。

※すべての画像はシュルガン=タシュ自然保護区よりご提供いただきました。この場を借りて御礼申し上げます。